先端技術の普及

先日、矯正歯科のセミナーに久しぶりに参加した。そのセミナーの内容は、近年騒がれはじめた、いわゆるDigital Dentistly(デジタル・デンティストリー)というやつである。歯科用のCTの普及や、口腔内スキャナーの認可が通ったのを期に、近年になっていっそう話題に上ることが多くなった気がする。デジタル・デンティストリーと言うのは、既存の歯科治療の体系をアナログ・デンティストリーだとするものに対する用語であり、具体的には口の中の情報を石膏模型で持つのでは無く、コンピューター内のデジタルデータとして保管し、CAD(コンピューターによる3次元モデルの編集・製作)とCAM(3Dプリンターによるコンピューター内製作物の出力)を行う方法である。CAD/CAMと言っても、パソコンに精通していない一般の人(歯科医師もですが・・・)には非常にわかりにくいかも知れないが、石膏の模型を使わないことで従来の方法に比べて格段に作業効率が上がるし、誤差も少なく正確であるという利点がある。矯正の治療においては一番の利点は、治療の計画と完成の状態の画像が治療前から患者と共有できる点である。これはインフォームドコンセント上、非常に説得力がある。今後、この技術の普及は更に進むであろうと確信し、自身で調査したところ、YouTubeなどでプレゼンテーションされているアメリカを初めとしたIT普及国のデジタルデンティストリーの状態に比べ、我が国の遅れようが痛烈に感じられた。この日本のガラパゴス化は何が原因なのだろうか。
 先端技術というのは、常にそれが普及するのには時間差が生じる。開発者とそれを支援したグループは、その技術の普及のために様々な工夫をこらす。歯科においても、デジタル化の波はその例外で無く、レントゲン写真などはその典型で、私が大学の学生だった頃はレントゲンフィルムが普通であったのに対し、今はデジタルレントゲン(レントゲン画像はフィルムで無くディスプレー上で表示される)がほぼ一般的になった。これらの普及も徐々に数十年の時間を要した。このレントゲン写真のデジタル化の流れで、デジタルデンティストリーの普及が加速するかと思いきや、それを阻んでいる原因があるのだと気づく。それは主に二つ考えられる。第一に、パソコンに対するリテラシーが遅れているというものである。これは世間一般に言われているのだが、未だに紙を使った情報伝達と保管がこれだけ残っている先進国(日本)は珍しいとされる。つまり、世間一般が海外に比べるとパソコン音痴なのである。このため、患者側もデジタルデータに対する理解はそれほど深くなく、要求も少ない。歯科医も新たなパソコンスキルを身につけるコストは払いたくない。これが一番の理由だと考えられる。第二に、規制だ。デジタルデータは当然、特定のソフトウェアによって処理されるのであるが、デジタル化するハードウェアの規制に加えてソフトウェアの規制があるのだと歯科関連貿易会社の社員は言う。データはあるのにそれが活用できないという、この規制は何のためなのか、非常に疑問に感じるものである。
 上記の二つの原因が、一般世間的には交互にバランスしてしまっているのが甚だ皮肉である。そして益々、技術の普及を阻むなれ合いの構造が生じている。決して大袈裟なことではないのだが、私はそれらの障壁に勇猛果敢と立ち向かうつもりである。

~不安を安心に~

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